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有吉佐和子著 『非色』
十五年戦争(太平洋戦争)後、日本に進駐してきた黒人アメリカ軍兵士と結婚しアメリカに渡った戦争花嫁が主人公である。
戦後の日本において、進駐軍兵士と結婚した日本人女性は日本社会から”白い目”で見られた。特に相手が黒人である場合は。そして、正式に結婚してアメリカに渡った戦争花嫁は、特に黒人やイタリア系、中米系のアメリカ人が夫である場合、向こうでも人種差別の真っ只中に放り込まれた。 この作品は、こうした二重の差別 ――日本の国内で見られる外国人差別とアメリカで見られる人種差別―― をめぐる現実を、正面から描いている。作者の筆致は実に真っ直ぐで、読んでいてここまで嫌な気持ちにさせられた作品は久しぶりである。描かれる差別が、あまりに”その通り”であり、差別の心理や差別の構図が余すところなく見えてしまうので、嫌な気持ちになったのだろう。その意味では、読者を嫌な気持ちにさせるための小説だと言えるだろう。 (1992年08月) 角川書店 文庫 1967 |