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大宮信光著 『科学理論ハンドブック50〈宇宙・地球・生物編〉』

ちょっと困ったガイドブック

 本書は、〈宇宙編〉5章(23節)、〈地球編〉3章(11節)、〈生物編〉3章(16節)の合計11章(50節)からなっている。それぞれの節では、冒頭に数行の「エッセンス」が置かれ、それに続いて「理論の概要」・「理論が生み出された背景」・「理論の発展」という形で話が展開する……。つまり、著者の大宮氏は、50の科学理論について、概要をまとめ、背景を説明し、今後の発展を述べるという、きわめて野心的なチャレンジを本書で行ったのである。

     ◇

 チャレンジの結果は、残念だが、成功とは言えないと思う。理由を、〈生物編〉からいくつか挙げてみる。

 まず、校正ミスが非常に多い。たとえば、一度、読みなおせば気づくはずの文章のミスが修正されていない。一例だけ引用してみる。

 旧口動物は、胚の段階でできる原口がそのまま成体の口へと分化する。新口動物原口が成体の肛門に分化し、成体の口が別のくぼみ(口陥)から新しく形成される(p.211)。

 書くまでもないだろうが、「新口動物原口が成体の……」のところは、「新口動物では、原口が成体の……」だ。

     ◇

 さらに、図(イラスト)でのミスがとにかく多い。一部を挙げてみる。

 p.190の図10は細胞のイラストだが、葉緑体・小胞体・ゴルジ体が正しく指されていない上、葉緑体の図が誤っている。

 p.198の図4はミトコンドリアのイラストで、マトリックスが正しく指されていない。

 p.202の図6は細胞内膜系のイラストなのだが、「リポソーム」が「細胞内物質を分解する」と説明されていたり(おそらくリソソームの誤り)、ゴルジ体の説明で「細胞の外に分布」とある(おそらく分泌の誤り)。ゴルジ体の位置も適切とは言えない。

 p.204の図7には「生態細胞」とあるが、おそらく生殖細胞のことだろう。

 p.219の図16は種子植物の生活環の図なのだが、配偶体からめしべ・おしべが生じるように描かれているのは誤り。

 p.220の図17では、腔腸動物が「膣」腸動物になっている。また、この図では、海綿動物の説明で「毛が生えたサルのような動物」とあるが、これはどう誤ったのか想像もできない。

 イラストレーターが描いた図のようだが、著者(ないし編集者)がチェックすべきだろう。ここまで多いと、チェックしたのか疑わしい。

 なお、〈宇宙編〉・〈地球編〉については、文章のミス・図のミスとも散見されたが、〈生物編〉に比べれば少なかった。

     ◇

 では内容はどうなのか? 〈生物編〉に関して言えば、「ncRNA(非コードRNA)」や「ゲノム・インプリンティング(遺伝的刷り込み)」といった、最新の話題が取り上げられている一方で、かなり古い内容が混在しており、不揃いな印象を受けた。また、説明のもって行き方がかなり強引なのも気になった。

 〈宇宙編〉では「ダークマター」や「ダークエネルギー」、〈地球編〉では「プルーム・テクトニクス」・「スノーボールアース」といった新しい話題も取り扱われているが、評者の知識では、細かい点の妥当性はわからない。ただ、〈生物編〉の強引さからすると、信じていいものやら不安になったのも事実だ。

     ◇

 著者の大宮氏は、本書の最後を次のように結んでいる。

 この自立−自律した機械−ヒト系は、エネルギー転換系は内胚葉、情報伝達系は中胚葉、そして自動制御系は外胚葉にほかならず、地球生命体が宇宙へと生みだすスターチャイルドなのだ。

 これが何を言いたいのか、私には、まったくわからない。正直に言って、困惑だけが残った一冊だった。

(2009年03月)

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