|
上野景平著 『これが正体 身のまわりの化学物質』
身の回りにある物もすべて化学物質である、というところから、身の回りの物の正体を化学的に説明していく、という面白げな意図で書かれた本だ。しかし、意図は空回りかな。
全体は1、2、3部に分かれていて、1部では化学物質とは何か、2部では基本的な化学物質にどんな物があるかを扱う。しかし、この1部、2部はほとんど意味がない。なぜなら、たくさんのことが簡単に書かれているため、化学の知識をある程度もっていないと理解できないが、理解できる程度に知識があれば、ほとんど新しいことが無いという結果になるからだ。 3部「身のまわりの化学物質の正体」がこの本のウリだが……。これも楽しむにはかなり、化学の知識が必要。だが、リビングルーム/キッチン/バス・トイレにある物がどんな化学物質からできてるかという話は、よくは分からなくても、ある程度は楽しめるかもしれない。例えば、乾燥剤や、化学ぞうきん、メガネふき、使い捨てカイロ、電池、甘味料、化学調味料、ラップフィルム、スポーツドリンク、石鹸、化粧品、シャンプー・リンス、などなどが紹介されている。 話は変わりますが、この本の著者は、環境問題に対して極めて楽観的で、科学技術で大丈夫という考え方の持主であることに気づきました。ま、応用化学科の出身だし、工学系を歩いた人らしいから、当然と言えば当然なのですが。 例えば、使い捨てカイロの項の最後は「中味の鉄粉は、人体に無害であることはもちろん、使い捨てしても環境に悪影響を及ぼすこともない、世界にほこれる日本の発明品のひとつであろう」と書かれ、洗濯と合成洗剤の項の最後は「現在、実用化されている合成洗剤は、自然分解型で、しかも無リンであるから環境への心配はない。しかも洗浄力は石鹸よりはるかにすぐれ、石鹸垢の付着する心配もない。合成洗剤による環境汚染は、合成洗剤を必要以上に使いすぎることによるものが、大きな原因である」となってるし、化粧品の項ではの最後では「従って、ちゃんとした名前の知られた化粧品メーカーの化粧品であれば、特異体質の人は例外であるが、ある化粧品の連続使用で健康をそこなうことは起こりえない体制になっている」ですから……。 (1991年10月) 講談社 ブルーバックス 1991 |