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吉川徹著 『学歴分断社会』
計量社会学を専門とする筆者が一般向けに書いた本であり、データに基づいて自説を紹介している。
本書の内容を理解する上では、筆者が明記しているように「学歴」と「学校歴」を分けることが重要である。たとえば「どこの大学を出たかは関係ない」という言い回しは、学校歴には関係ないという意味であり、大卒と高卒の違いを(暗黙に)前提としていることに注意しなければいけない。 さて、本書の内容を短くまとめれば次のようになる。 日本では、大学卒(以上)と高校卒(以下)の間に大きな溝がある。 この溝は、他の様々な問題の土台(主たる原因の一つ)である。 この溝の重要性が、社会的に認識されていない。 そのため、さまざまな対策が実効性を持たない。 この溝の存在を認識し、それを踏まえた社会的な対策を考えなくてはならない。 要するに、学歴分断(学歴による分断)というツールで、日本社会を切って見せているというわけである。 ◇ 面白い切り口だとは感じた。このツールで描かれる像にもそれなりの説得力があり、日本社会のある面に関する説明として納得もできた。まあ、データの解釈が妥当なのかどうかは、本書のもとになっている論考の方は読んでいないので、信頼するしかないのだが……。 しかし、この本を誰かに薦めたいか?と自問すると、薦めるのを躊躇する。なぜ躊躇するかと言えば、結局、何か物足りなかったのだ。そう、切り口は面白かったが、読み終わって「だから?」という印象が強い。 でも、読むか読まないかなら、読んだ方がいいよと言う。日本の現状について考えたいと人なら、誰であれ、この本を読めば得るところがあると思うからだ。現代日本に認識されていない溝があるのだから、それを知っているのと知らないのでは、知っている方が良いに決まっている……。 (2012年01月) 筑摩書房 |