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粋な柄(アサガオ研究室



木村元彦著 『オシムの言葉』

 オシム氏がサッカーのナショナルチーム監督になる以前から読みたいと思っていた本だ。

 彼は、資金の少ないチーム(ジェフ千葉)の監督となり、強化に成功して、リーグ優勝を争い、カップ戦優勝を達成する。その間、サッカーに詳しくない私にも、何か「他と違うこと」・「新しいこと」が起きているという雰囲気がサッカー番組やスポーツ番組を通じて伝わってきた。

 そして、2006年夏、ナショナルチーム監督に就任。さまざまなエピソードが、そして“オシム語録”が、画面・紙面に溢れる。

 「ミーハーだけれど、読もう」

 地元の小さな書店に行っても在庫がない。平積みになっていると予想したのに……。どうやら、増刷は時間もかかるし、配本も大きな書店が先らしい。結局、銀座の書店で買いました。

 で、読んだ……。オシム氏の半生と、そこにある“オシムの言葉”の数々。

 裏切られた。最良の形で。
 本を読んで、良い意味で、ここまで裏切られた本はいつ以来だろう……。

 オシム氏自身へのインタビュー。
 妻のアシマさんや息子のアマル氏、チームのGMの祖母井氏などオシム氏の近くにいる人間へのインタビュー。
 ストイコビッチ、マテウス、阿部勇樹、佐藤勇人……、オシム氏を知っている有名・無名の人間へのインタビュー。
 世界各地での取材。ライターの地道な努力が産んだ“価値あるノンフィクション”だと思う。


「ライオンに追われたウサギが逃げ出すときに、肉離れをしますか? 準備が足らないのです」(p.28)


 あまりにも有名になってしまった“オシムの言葉”だが、この本では見出しの一つになっている。


「アイデアのない人間もサッカーはできるが、サッカー選手にはなれない」(p.40)

「そこまでして、代表のために人を呼べるほど私は教育のある人間ではない」(p.85)

「私はビッグクラブ向きの監督ではない。スター選手を外したら、監督の首が飛ぶだろう」(p.119)

「重要なのは、ミスをして叱っても使い続けることだ」(p.123)

「私の仕事はスイカを売ることではなくて、生きている人間と接しているわけだから」(p.210)


 あるいは、オシム氏の通訳をつとめる間瀬氏の言葉による見出し。


監督をやっているんじゃなくて、監督という生き物(p.175)


 数多くの人間に影響を与えているオシムという人物。人を変え、人を育て、人を花開かせる……。
 そんなオシムという人間の深みと魅力は、こんな言葉でも語られています。


 アシマが夫のいない時に漏らしてくれた。
 「自分が来たことでジェフの選手が学んでくれた。イヴァンはそれが何より、嬉しいのです」(p.230)


 定価は「本体1600円+税」。
 価格以上の内容をもっている本だと思います。


(2006年08月)

集英社インターナショナル


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