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酒見賢一著 『後宮小説』タイトルをにあるように「後宮」を舞台とした「小説」である。後宮。すなわち、権力者の世継ぎを産むための女たちが住む、閉ざされた空間。 淫靡、享楽、頽廃、嫉妬、謀略、……。こんな単語が似合う世界だろうか。 しかし、この小説の後宮には、こんな単語は似合わない。そもそも、「後宮」の本質である“男女の交わり”の描写もほとんど出てこない。 描かれている世界はむしろすがすがしい印象である。この小説が「日本ファンタジーノベル大賞」を受章したファンタジー小説であると書けば、それも納得できるかもしれない。難しく考えることはなく、素直に楽しむことのできる作品である。 (1991年01月) 新潮社 1989 |