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火曜定休でした(岡本太郎記念館



白川道著 『大人のための嘘のたしなみ』

 店頭でタイトルに興味を引かれて手にとり試し読み。で、買ったわけですが、看板に偽りはなく、「嘘」に関するノンフィクション(?)とエッセイという感じ。誠実に書いていると感じますし、まぁ、値段ちょうどという感じです。

 著者の白川氏は、本人の言葉を信じれば、相当に波乱万丈な人生――1945年生まれ・一橋大卒・広告代理店・株式投資顧問会社経営・現在は作家/ギャンブルで借金を作り、返すために詐欺まがいの営業をする会社で働き、お客に騙されていることを伝えて助けるとともにまとまった金を会社から手に入れ、ヤクザから政治家までと関わった――を送っています。

 なので、登場する「嘘つき」たちの話は、人間観察として面白い(一応、ノンフィクションと信じて書いています)。

 あと、「嘘」を巡る分析には、いくつか「なるほど」と思うところがありました(だから買ったわけですが……)。一つだけ、何番目かの「なるほど」を紹介します(最も「なるほど」と思ったものを紹介しちゃうと読むのを薦める理由がなくなるので……)。


 世の中には本当にたくさんの嘘が溢れている。その嘘に踊らされ、騙されて自分の将来を棒に振っている若者も非常に多くいる。そのような嘘はとても罪が重いと思う。
 たとえば、学歴社会についての嘘。確かに学歴社会というものは多少の問題はあるとは思うが、それについてもっとも重要で罪が重いのは「学歴なんて関係ない」という嘘だと私は思っている。
 なぜならその嘘は、それこそが真実だと誤解しやすい表現をしているので、それを真に受けた若者が「ああ、世間はそういうものなのだ」と安易に妥協する傾向に拍車がかかってしまうからだ。しかも、その傾向は最近ますます顕著になっているように思う。
 では、なぜそのように考えているのか、を書いていこう。
 (中略)
 確かに「学歴など関係ない」「学歴より個人が大事だ」「実力さえあれば学歴など関係ない」という意見は美しいし、聞こえもいいだるお。だが、その論調には嘘が潜んでいることを忘れてはいけない。
 「実力さえあれば……」という考えは決して間違ってはいない。けれども、そのような実力に恵まれた者、アイディアひとつで世の中を御していける者は、ごく限られた者であり、ほんのひと握りなのだ。
 現実をつぐさに見てみれば、まだまだ日本社会は学歴社会に牛耳られているし、一個人を見る世の中の目、というものはそこまで成熟していないことは分かる。
 (中略)
 学歴社会に関して卑近な例を挙げよう。それは私のことだ。私のように世間からドロップアウトしてしまった人間がなぜ生きながらえたのかという理由の一つは、私の学歴にあると正直に認めよう。それは私が一橋大学を卒業してから、ということが私の人生において大きく作用していると思っているのだ。
 私の場合、何か取るに足らないような事業でも考えついて、それに役立ちそうな人物に会いたいと思えば、大抵の場合は誰もが時間を取って会ってくれた。その理由は私が一橋大学を卒業したからだと思う。私がいかに素晴らしいアイディアを考えついたとしても、大学を卒業してもいないような状況であれば、おそらく誰も時間を割いて会ってはくれなかっただろう。その最初のステップをクリアできたのは間違いなく学歴だ。


 ただ、全体としては分析は“甘い”印象です。まぁ、学術書ではなくエッセイですから良いのですけれど、少々、道徳の教科書みたいなところがあって、それが、彼の人生との対比で――悪い世界をたくさん見ると道徳的になる?!――面白かったですね。

(2006年12月)

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