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玉木正之著 『不思議の国の野球(ベースボール) チェンジアップを16球』玉木”投手”はこの”登板”で、”14球”の”変化球”を投げている。その全てにおいて、プロ野球の選手が様々な表現スタイルの世界−−文学・講談・シナリオなどなど−−に放り込まれる。描かれている世界は異様である。しかし、ただ異様なのではなく、プロ野球ファンにとって「ニヤッ」と笑える世界でもある。 ”パロディ”作品の常として、背景知識が無いと楽しむことが難しい。 プロ野球に起きた事件、人名、などを知らないと、この作品はほとんど楽しめないだろう。様々な言葉遊びも決して質が高いとは思わない。が、日本のプロ野球の世界の異様さの”パロディ”として読むから、楽しめるのである。 玉木氏の本職はスポーツ・ノンフィクション・ライターである。氏のプロ野球に対する視線には共感することが多く、わたしが好きなスポーツライターの一人である。しかし、氏のプロ野球に対する視線が、プロ野球ファンに広く共有されているかというと全然そうでない(そのことは残念なことだと思っている)。少数派に属することは間違いないだろう。現在の日本のプロ野球ファンが氏のような視線を持てない−−具体的に云えば特定チームの勝利にのみこだわりPLAYとして観ることができない−−からこそ、氏の書く文章が価値を持つのだと思う。プロ野球ファンの人にはちょっと読んでもらいたい本である。 (1992年07月) 文芸春秋社文庫 1991刊 |