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神奈川沖浪裏(アダチ版画研究所


中西準子著 『飲み水が危ない』


本書で中西氏が書いていることで、特に重要だと思うのは、リスクをリスクだけで論じるのではなく、リスクと効用との比(リスク/効用)で考えることの必要性である。重要性ではなく必要性であることがポイント。この〈必要性〉が分かりやすく説明されている。

「私たちは長い間、発ガン性物質というのはゼロであった方がいい、だからゼロにしろという要求できたのです。しかし、それだけではこういう理論に負けてしまうのです。
『もっとありますよ。もっと何千倍も何万倍もリスクのあるものがあるじゃありませんか。自然にあなたたちは食べているじゃありませんか。ローストチキンの中には水道水の何百倍もの発ガン性物質がありますよ』
と、そういうことを言われると、私たちはやはり、うまく反論できない。……」

 うまく反論できないのは、リスクをリスクだけで論じているからだ、リスク/効用という概念で考えていくことで、反論していくことができるということを中西氏は述べてます。

 これは、運動家(の一部)にとっては、後退あるいは日和見ととられることもあるようですが、リスク/効用の比で考えることが文明社会によって作られた環境――水道とか、保存料、薬剤など――を考える場合には絶対に必要なのです。このことを理解しなくては、環境運動・環境教育ともに無意味(非生産的・非現実的)なものになってしまうでしょう(同様の考え方を安全規準に適用しているものとして、武谷三男編『安全性の考え方』岩波新書がある)。

 さらに、水道水の現実(水道水が安全であるというのが嘘であること)や水道行政のおかしさ(安全のための規準の矛盾や、浄化の方法の非合理性)といった、現実についての重要な情報も書かれており、水道や水で環境教育をする場合には必読の書であろう。


 といったことを20年前に紹介しましたが、個々の事実は変わっても、分析の視点としてリスク/効用の比が必要なことに変わりはありません。ま、20年前よりも、普通に耳にするようにはなりましたが。


(1991年11月に書き2013年08月に直す)


岩波書店
岩波ブックレットNo.144


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