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フォーサイス著 『オデッサ・ファイル』
オデッサ(ODESSA)は「元SS隊員の組織」のドイツ語表記の頭文字である。SSというのは、ヒトラー率いるナチスが作っていた軍隊の中の特殊な部隊(突撃部隊)のことで、ユダヤ人抹殺の実行部隊である。このオデッサに属する人物の名前を記したファイルの通称がタイトルになっている「オデッサ・ファイル」である。
『オデッサ・ファイル』は、「オデッサ・ファイル」の秘密を追う若いジャーナリストを主人公とし、ユダヤ組織、ナチス組織がからむ長編サスペンス。 戦後、戦争中の事件を忘れたいと思う人、忘れられない人、忘れさせまいと思う人、知りたいと思う人、知りたくないと思う人……様々な立場があり、そのそれぞれの立場に思い・痛みがある。 過去に犯罪を犯したこと、それ自体を責めるのは残酷である。しかし、過去に犯した犯罪を犯罪でないと強弁し反省せず、なお利益を求めようとするなら、その振るまいは責められるべきだろう。 本書には、そうした振るまいの醜さを戯画化した人物が出てくるのだが、その人物が極めて“日本人的”に思えてしまうのは気のせいだろうか。 (1993年06月に書く) 角川書店文庫 1980 |