|
福永武彦訳 『 国民の文学8 今昔物語』
『国民の文学』シリーズは日本古典の現代語訳。その8巻が今昔物語です。第一部・世俗(26編)、第二部・宿報(15編)、第三部・霊鬼(24編)、第四部・滑稽(19編)、第五部・悪行(27編)、第六部・人情(9編)、第七部・奇譚(12編)、第八部・仏法(23編)の八部(合計155編)からなります。
本書にある説明によると、古典としての今昔物語は三十一巻からなり、合わせて1000を超える短い話が収められているそうです。三十一巻は、天竺の部(五巻)、震旦の部(五巻)、本朝の部(二十一巻)に分かれており、この訳書には、訳者の判断で本朝の部からだけ抜粋したそうで、八部に分けたのも「訳者の勝手」とのこと。きっと原典とは相当違うのでしょう。 古典を古語で読むのが困難なので現代訳を読むわけですが、そうすれば、訳者の趣味に付き合うことになる。まあ、仕方ないことですね。源氏物語の現代語訳は、訳者によって相当に雰囲気が変わりますし、この今昔物語もあくまで福永訳ということで楽しめば良いのでしょう。 収められている話には、よく知っている説話もあれば、初めて読むものもありました。その中で、霊鬼のところにあった『猟師の母親が鬼となる話』は、白土三平の『忍法秘話・参 シジマ』の冒頭「鬼」の章の第一話でした。 白土ファンにしてみれば「何をいまさら」かもしれませんが、ちょっと驚きました。白土さんはきっと今昔物語をしっかり読まれているのでしょう。白土漫画の奥行きの深さの源を垣間見た気がします。 (2010年05月に書く) 河出書房新社 1964年 |