|
リード著 『コルディッツ大脱走』ナチスドイツによってコルディッツ城に創られた捕虜収容所(少なくとも一度は脱走を試みた者のみが収容される)からの連合軍軍人たちの脱走の数々が、実際にその時その場所にいた人間によって記されている。イギリス軍人である著者のリードはこの収容所に収容されていた当時、脱走担当者(仲間の脱走の援助と計画の統括をする。そのため道義的に脱走に参加できない)であった。彼が述べていく脱走の計画とその結末は、読んでいる私を脱走という、ひとつ間違えば命を落とす危険な賭に参加させてしまう。 冒険。文字どおり危険を冒すのだ。さらに彼自身の脱走(脱走担当者を交代した後)の記録は脱走者の心理状態をはっきりと知らせてくれる。ここに描かれているのは人間の強さなのだ。こうした強さに憧れ、自らも証明したいと思う人間もいるかも知れない。しかし、私たちはこうした形で人間の強さを証明する機会を持たないことを感謝するべきだろう。 (1990年03月) 光文社 1973 |