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ハンフリー著 『赤を見る』赤を見る。赤い林檎を見るではなく。 赤を見る。赤いリボンを見るではなく。 赤を見る。赤い……。 この本は、〈赤を見る〉という経験について、動物行動学・実験心理学のアカデミックな経験をもつ哲学者が、真正面から取り組んだ本である。 この本は、読者を選ぶ本だと思う。 たとえば同じ赤い林檎を見て、「私が見ている赤と、隣の人が見ている赤は本当に同じ?」という疑問を大切(重要)に感じる人は、この本を楽しめると思う。「同じ林檎なんだから同じ赤に決まっている」と思う人には、この本のメッセージは届かない気がする。 光の波長と色は違う。色はヒト(動物)の感覚であり、経験である。 この本のp.20にこんな一文がある。 彼は、赤い感覚を経験していると自らが呼ぶような特別な意識の状態を生み出すのだ。 ◇ ヒトには感覚があり、意識がある。この二つは区別しなければいけない。 ヒト以外の動物、たとえばゴリラにも感覚(色の感覚)がある。でも、意識があるかどうかはわからない(私はあると信じている)。ミツバチにも感覚(色の感覚)がある。でも、意識があるかどうかはわからない(私はないと思うが)。 この本のp.85の冒頭にこんな一節がある。 「意識は何から成るのか」と問うとき、私たちはどんな種類の答えを探しているのだろう。これまでずっと、意識に上る感覚は現に存在する事実として話を進めてきた。意識は、その持ち主の頭の中で起きている何らかの物質的な活動から成る。そしてこの活動は、自然淘汰によってデザインされたもので、生物学的に進化した神経系以外には何も使っていないと推定できる。 それでは、私たちが求める答えは、神経細胞レベルでの説明なのだろうか。昨今の研究の多くが、その方向に傾いているのは確かだ。たとえば(略) この後に、この方向性の研究の、本質的な限界が語られ、この本がやろうとしている新たなアプローチを語るという、知的に楽しい部分が展開していく。 ◇ 著者は、自然選択が意識を進化させたと考えている。自然選択は、生き残るのに好都合な方向への変化(適応)に過ぎない。だが、その自然選択の結果として現生するヒトにとって、(自らに備わっている)意識は重要なものになっている。 この本には〈疑問〉があり、〈問い〉があり、〈答えを目指す営みの連鎖〉がある。〈答え〉があるかどうかは何とも言えない。著者の誠実な営みと著者なりの〈答え=仮説〉はあるけれど、読者が、それを〈答え〉と感じるかどうかはわからない。 ただ、〈疑問〉と〈問い〉を共有する人には、良い道しるべになる本であることを、私は疑わない。 (2016年8月・筆) 『赤を見る 感覚の進化と意識の存在理由』 ニコラス・ハンフリー著 柴田裕之訳 紀伊国屋書店 2006年刊行(原著2006) 目次 1.興味深いがいわく言い難い現象 2.赤を見る 3.感覚とは何か 4.意識の方程式と感覚の進化の物語 5.感覚ミラーニューロン 6.Xファクターの小体 7.不可解な性質のゆえ |