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近藤唯之著 『プロ野球痛快ライバル論』
二人の選手を一組みのライバルとして取り上げる。これは現在のプロ野球界を描く魅力的な視点だと思う。
著者の近藤氏はこの思いつきが昨年92年の日本シリーズ第7戦(岡林VS石井)を取材していて閃いたという。その瞬間、近藤氏は飛び上がらんばかりに喜んだろうと思う。 ファンの目から見ても非常に魅力的な切り口である(非常に期待して読み始めた)。 が、はっきり言って失望を禁じ得なかった。 本書に取り上げられている16組のライバルを、私はライバルとして見られなかったからである。 もちろん、どのような視点でライバルと位置づけるかは書き手のセンスであり、読み手が非難すべきことではないだろう。実際、最善とは思えないが理解はできる組み合わせは何組もある。ただ、私の目から見てこれこそライバルだと思える組み合わせではなかった、そこに失望したというだけのことである。 さて、では16組のライバルを列記しよう。 落合(D)−門田(H) 秋山(L)−清原(L) 野茂(Bu)−与田(D) 広沢(S)−池山(S) 桑田(G)−阿波野(Bu9 平野(L)−川相(G) 岡林(S)−石井(L) 辻(L)−高木(W) 大野(C)−遠藤(W) 大島(F)−宇野(D) 新井(Bu)−篠塚(G) 佐々木(W)−石毛(G) 前田(C)−新庄(T) 屋鋪(W)−飯田(S) 達川(C)−古田(S) 野村(S)−森(L) 近藤氏のいうライバルは、基本的に同じ立場・役割という印象が強い。典型が平野(L)−川相(G)の組み合わせである。野球ファンには、ここで「犠打」が扱われていることは自明だろう。だが平野選手も川相選手も「犠打」だけの選手ではない。むしろそれ以外の部分に魅力がある選手だと思う。 平野選手ならば「補殺」。つまり強肩という魅力がある。川相選手ならば「併殺」。攻撃的な守備という魅力がある。そうすると、平野選手には飯田選手(S)を持ってきたい。昨年の日本シリーズで、平野選手の送球をかいくぐった飯田選手に対し、飯田選手の送球に殺された平野選手。その時の思いを率直に聞きだしてくれたら、と思う。 一方、川相選手には池山選手(S)を持ってきたい。遊撃手の守備に関しては現役選手では1、2を争う二人の守備について描いて欲しかった。 他にも組み合わせについての不満は多々あるのだが、それは贅沢というものかもしれない。素直に近藤式「ライバル」について読めば十分に楽しい本なのだから。 (1993年06月) 新潮社 文庫 1993 |