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佐伯胖著 『学力と思考』まえがきによると、この本は認知心理学者である著者が書いた教育書であるそうだ。つまり、認知心理学の業績を紹介しつつ「学力」や「思考」を明らかにしようとしながらも、あくまで教育における意味、教育実践への示唆という視点を失うことなく考察しているのである。 第一章は「学力」とは何かというタイトルどおり、学力という厄介なものについて議論を整理していく。そして「『学力』というものの実在性をはっきり否定」することを提唱している。 この言い方を誤解しないでほしいのだが、著者が否定しているのは、一般的な力としての「学力」という実体であって、従来「学力」の名で指し示されていた内容のすべてを否定しているのではない。これ以上の細かい議論はぜひ自分で読んで下さい。 さて、第二章以降については、著者自身がまえがきで各章の内容をまとめているので、それを要約・紹介しましょう。 第二章は、『LISPで学ぶ認知心理学2 問題解決』(東大出版会 1982)の第一章に若干の修正を加えたものである。 第三章は、第二章の哲学的分析を「引き算」という具体的な教科内容を例にして、さらにつっこんだ考察をしたものである。 第四章は、サイコロジー誌(1980年12月号)に発表したものに加筆修正して再録したもので、「視点」の問題を扱っている。この「視点」の問題は大切であるにもかかわらず、教材構成に取り入れる研究は未開拓に近いそうである。 第五、六、七章は理解、納得、知ることへの動機づけなどについて、かなりつっこんで考えたものである。 第八章はLOGOを紹介している。 第八章はともかくとして、この本はとても刺激的な本だと思う。つまり、いろいろなことを考えさせる刺激になる。教育場面、教育実践に直接適用できるとは思わないが、含んでいる示唆は豊かだと思う。 (1990年11月) 教育学大全集16 第一法規 1982刊 |