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古田武彦著 『法隆寺の中の九州王朝』
この本は、古田さんの「古代は輝いていた」三部作の三冊目で、扱っている時代は六世紀前半の筑紫君磐井から七世紀半ば過ぎの白村江の戦いまでです。この三部作(この本のほかに、縄文時代から三世紀の倭国までを扱った『「風土記」にいた卑弥呼』と弥生時代の銅鐸国家から六世紀初めの継体帝までを扱った『日本列島の大王たち』がある)が一貫して批判しているのは、従来の歴史学の「大和一元史観」です。これがどういうものかを簡単に言うと、日本古代には大和朝廷以外の統一国家はないし有り得ないという基本的態度のようなものです。それに対し古田さんは高度の文化をもつ国家が日本列島に複数あったという多元史観を主張しています。
この本では、それは九州王朝というかたちで出ているのです。例えば、記紀に記録されている大和の年号のほかに九州王朝の年号が存在したことをこの本は述べています。ただ、謝銘仁著『邪馬台国中国人はこう読む』や安本美典著『邪馬台国への道』で古田史観がずいぶん批判されているのも事実です。古田さんの主張が正しいのかどうかはわかりませんが、ともかく従来の歴史学に対する批判のなかには聞くべきものがあるのかも……と思います。 (1990年04月に書く) 朝日新聞社 文庫 1988 |