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井上ひさし著 『偽原始人』

 『偽原始人』は中学受験の勉強をしている小学5年生3人組が親や学校、塾、家庭教師を敵に回して活躍する長編小説。朝日新聞の新聞小説として連載され、単行本が1976年5月に朝日新聞社から刊行されている(おそらく連載は1975年だったろうと思う)。

 私は、当時11歳。小学校6年であった。中学受験をすべく進学教室(四谷くんと大塚くんの進学教室)に通って受験勉強をしていた。そして新聞に連載されるこの作品を毎日欠かさず読んでいた。
 まさしく同時代の同世代を主人公とした作品だったわけである。とても楽しみにしていた記憶がある。主人公の3人、池田東大・高橋庄平・大泉明の気持ちに素朴に共感していたのだと思う。

 そして、18年後。個人的な感慨は別にして、この作品は18年たってもリアリティを失っていない。言い換えれば日本があいもかわらず受験社会だということなのだろう。息が詰りそうな受験社会の中で、冒険し戦おうとする3人のエネルギーは、人間の素直な悲鳴だろう。

 3人組が引き起こす事件は、娯楽小説ならではの楽しさに満ちていて、理屈をこねるようなところはまったくない。だが、井上氏は、読者を楽しませながら、子どもの苦しみ、優しさ、残酷さ、を描き、世の中に異議を唱えているのだ。

(1993年06月)

新潮社文庫
1979


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