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クリスティ著 『春にして君を離れ』
1944年に書かれたクリスティの作品ですが、NHK-BSの番組で紹介されたのを見るまで、存在を知りませんでした。
その番組によると、当初、別のペンネームで発表され、ずいぶん後になって、クリスティの作品集に収録されたのだそうです。典型的なミステリーとは全く異なるけれど、ミステリーの手法を駆使している作品で、有名な失踪事件とも関連するらしい……とのことでした。で、まあ、読んでみようと思い立ったわけです。 主人公は、ジョーン・スカダモアという主婦。娘夫婦を見舞ったバグダッドから、夫の待つイギリス、クレイミンスターの自分の家に帰るまでが、小説の舞台になっている。そこで起こる、あるいは起こらない事件の連鎖が、一つの収束点に……。 2004年に出た文庫版で読んだのですが、この版の「解説」は、いまは亡き、作家・栗本薫氏が書いています。この解説というやつは厄介物で、多くの本では無い方がマシです。ですが、稀に、“もう一つの作品”として価値のある「解説」が存在する……。だから、読まないわけにもいかないし、読めば失望するわけです。この栗本氏の「解説」は(私には)価値のあるものでした。おそらく、今後、忘れられない解説の一つになると思います。 もし、拙文を読んで、この本を手に取ろうと思い立った方がいらしたら、解説を先にお読みにならないようにお勧めます。 (2010年03月) 早川書房 文庫 2004 |