ぴゃんの本棚



粋な柄(アサガオ研究室



黒岩重吾著 『西成十字架通り』

 大阪西成を舞台とした4編の作品を収めている。どの作品でも社会の底辺に生きている男と女とが描かれており、何とか浮かび上がろうと努力し、それでも浮かび上がり切れない哀しい人間の姿がある。

 社会の階層の中で相対的に上位にいる人間には、〈社会の底辺にいる人間は努力しないから底辺にいるのだ〉という発想を持ちがちである。努力しないのだから底辺にいるのは自業自得だと思うことで、心の痛みを消したり、あるいは努力している(つもりの)自分を褒めたいのだろう。だが、そうではなく、社会の底辺に住み、何とか浮かび上がろうとし、でも上がり切れない。そうした人生もあるのだ。自由主義社会の中にある競争は決して平等な競争ではない。最初からハンディキャップがついている競争なのだ。弱い者は負けるべくして負け、強い者が勝つべくして勝つ。そんな競争のなかで浮かび上がるには努力のほかに運が必要であり、その運が足りないために浮かび上がり切れない人間がいる。そうした社会の残酷さを感じさせられる。


(1992年11月)

角川書店文庫
1979刊



戻る

Copyright(C) 2009 ぴゃん(-o_o-)/額鷹

メールアドレス

このサイトはSitehinaで作成されています。