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星新一著 『妖精配給会社』
このショートショート集に収められている中で最も好きな作品は「ひとつの装置」。
そのあらすじはこうである。 国立の研究所の所長が予算を流用し私財まで注ぎこんで、ひとつの装置を開発設計する。この装置は「もっとも人間的な装置、世界がいまのままなら、絶対に必要な装置なの」だと所長は言う。やがて予算もつき開発も進み、装置が完成する。この装置の「外見は金属製のポストといえた。円筒形であり、胴の中央あたりに押しボタンがついている。外側には一本の腕がついている。まさしく、人間の腕といった感じだった」のである。 この装置は、広場の中央にすえつけられ、見た人の押してみたい衝動を駆り立てる。そして、押しボタンが最初に押されると……。だが、大したことは起こらない。だが、長い時間が流れ、この訳のわからない装置の本当の意味が明らかになる日がやって来る……。 文庫の出版が1973年。現在でも、ああ、この作品で星さんが書いたとおりの道を進んでいるなと、そう思う結末ではあります。 (1992年12月に書く) 早川書房 ハヤカワ文庫 1973 |