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横溝正史著 『本陣殺人事件』横溝氏の生みだした“名探偵・金田一耕助”の出世作が表題作『本陣殺人事件』である。この名探偵のシリーズ物では、名探偵のキャラクターがやはり気になる。有能(つまり謎を解ける)なのは、これは当たり前である。何故なら、犯罪者と探偵は「作家」という同一人物なのだから。 読者として作品を読んだ時に、名探偵が一人の個性的な人間としてイメージできるかどうか。これがそのシリーズの急所だと思う。その意味では、金田一耕助は個性的なキャラクターでイメージを作りやすい。 もちろん、好きになるか嫌いになるかはこれは読者の感覚の問題だから、どうしようもないのだが、ありきたりな人物だったり、何処かで見たようなキャラクターだったりすると、(好き嫌い以前に)興醒めだ。 もうひとつ、名探偵の登場のさせ方というのも難しい点である。 これはシリーズ化するかどうかとは別に、最初に”名探偵”という登場人物を登場させる難しさである。この点で巧いと思うのは、やはりシャーロック=ホームズである(『緋色の研究』)。 本作品では、金田一耕助なる人物は、事件の現場にいる関係者によって電報で呼びだされるという形で登場する。紹介役の登場人物がいるという点ではホームズの場合と似ていると言えなくもないかもしれない。まあ、興味のある人は読み比べてみてください。 (1992年12月) 角川書店文庫 1973刊 |