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粋な柄(アサガオ研究室



倉橋由美子著 『聖少女』

 一人の少女と彼女の世界を、彼女と出会い彼女を「愛する」青年の視点を通じて描いている作品です。

 ここで描かれている「愛」は、きわめて「植物的」な「愛」である。温度・臭い・柔らかい膚触りといった「動物的」な男女関係は二人の間からは消し去られている。他方、描かれていく彼女の世界は、父親を男として愛し肉体的に結ばれるという、極めて「人間的な」(動物的とか野獣のような、といった形容詞は誤りなので、私は使わない)、「虚構」(実際にはないという意味で)の世界である。

 倉橋作品は「虚構性」が強い。この点は、これ以外には共通するものがほとんど無いように感じられるにもかかわらず、筒井康隆氏の作品と共通すると思う。現在の教科書は知らないけれど、自分の経験した範囲では、この二人の小説を教科書で見た覚えが無い(筒井氏の『バブリング創世紀(だったかな?)』という言語実験的な作品だけはあったことを記憶しているが)。この辺の事情はわからないが、日本の文学界が、(狭い意味での)リアリティを好んでいるとか、娯楽という側面に低い評価しか与えないとか、いろいろな原因があるのだろう、きっと。そしてその影響なのか、現在の国語の授業では、小説の「虚構性」が強調されているとは思えない(あるいは「虚構性」の魅力が扱われていない)。

 実際、倉橋作品たとえば、近親相姦を扱ったこの作品を教材とすることは、難しいだろう。しかし、それは授業で「虚構性」の魅力を扱えないということではないはずである。この『聖少女』では出来なくても、探せば倉橋作品にだって、きっといい素材があるだろう……。たとえば、『大人のための残酷童話』や『怪奇掌篇』なんかに収められている短編なんか、いいと思うのだが……。

(1992年01月)

新潮社文庫
1981刊


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