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粋な柄(アサガオ研究室



倉橋由美子著 『パルタイ』

 この本に収められている短編は倉橋氏の初期の作品です。文壇デビュー作である表題作「パルタイ」を初めとする5篇の短編は、最近の作品とはまったく雰囲気が違っています。

 『パルタイ』の原著は1960年の刊行。本書の解説によれば、1959年に「パルタイ」が明治大学学長賞に入選し(当時、倉橋氏は同大の仏文に在学中)、それをきっかけに翌60年に4篇を書いたということである。時代はいわゆる '60年安保の頃であり、作品にその雰囲気がきわめて強く反映していると思う。共産党を思わせる革命党が出てきたり、〈組合〉や〈労働者〉、〈非人〉といった単語が小説のなかに現れたり、読むと違和感が強いかもしれない。
 描写は中性的であり、最近の作品と相通じるものも感じられる。しかし、最近の作品を好む読者にとっては、おそらくあまり魅力が感じられないのではないだろうか。私自身、『怪奇掌篇』や『ポポイ』に比べると、つまらない印象を受けた。『怪奇掌篇』や『ポポイ』が”物語的”であるのにたいして、『パルタイ』があまり”物語的”ではないという言い方ができると思う。”物語的”であることが倉橋氏の世界の魅力ではないかと、読者としては勝手に考えるわけですが、この点についての倉橋氏自身のコメントは『大人のための残酷童話』にあります。興味のある方はどうぞ。

(1991年09月)

新潮社文庫
1978刊


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