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精子発見のイチョウ(小石川植物園



筒井康隆著 『エロチック街道』

 筒井康隆の短編小説集である。表題作を含む18作品を収めてある。

 タイトルを列記すれば「中隊長」「昔はよかったなあ」「日本地球ことば教える学部」「インタヴューイ」「寝る方法」「かくれんぼをした夜」「偏在」「早口ことば」「冷水シャワーを浴びる方法」「遠い座敷」「また何かそして別の聴くもの」「一について」「歩くとき」「傾斜」「われらの地図」「時代小説」「ジャズ大名」「エロチック街道」。

 こうして並んでいるときにどれを「読んでみたいなあ」と感じますか? 筒井氏の作品のタイトルを見る。中身の想像をできない。正直なところでしょう。タイトルを見ただけで中身の大方の予想をできてしまうようなら、良いタイトルではない。読者の興味をひくと同時に「?」と感じさせて初めて、良いタイトルと呼べるのでは? そういう意味で筒井氏の作品のタイトルって、良いタイトルと言えるでしょう。

 閑話休題(話はかわって)。ちょっとだけ作品を紹介しませう。

 「中隊長」って15ページ(以下、1ページは41文字×17行である)の作品。馬に逆向きに乗ってしまう癖をもった中隊長の独白。

 「昔はよかったなあ」6ページ。昔というものの、現代から幕末くらいまで目茶苦茶に並べてある。近代以降の歴史の雑学のない人の全く判らないようなパロディ。

 「日本地球ことば教える学部」16ページ。一種の言葉遊びをやっている小説。地球の日本語を勉強しているETというノリ。

 「インタヴューイ」10ページ。インタビューの無意味さと、会話のズレを強調していくような感じ。

 「寝る方法」なる13ページの作品。文字通り(いやタイトル通り)、寝る方法を書いてある小説。

 「かくれんぼをした夜」10ページの作品。同窓会に集まった男たちの、子供の頃にやったかくれんぼの回想を中心とする。

 「偏在」も10ページの作品。小説の技法の実験をしている作品で、視点の混乱を含む。この作品、国語の文芸作品の読解法なんかお手上げだろう。

 「早口ことば」5ページ。早口言葉を74こ並べてある。最後に「禁無断引用・但しアナウンサー、劇団員養成訓練用の使用は自由です」と書いてあり、お茶目。

 「冷水シャワーを浴びる方法」という2ページの作品。実際に冷水シャワーを浴びる時の様子を描写している。

 「遠い座敷」15ページの作品。山の上の家と下の家を結んでいる座敷、その座敷を帰っていくひとりの男の子を描写したもの。

 「また何かそして別の聴くもの」という7ページの作品。謎解きその他が並んでいる言葉遊び。

 「一について」って11ページ。言ってみれば漫才のシナリオみたいなもの。最後に「禁無断上演、無断ギャグ流用」とある……。

 「歩くとき」も15ページ。「寝る方法」と似た雰囲気を持つ作品で、歩くときの肉体のようすを描写している。

 「傾斜」2ページ(行を数えると20行、これでも作品なんだなあ)。夕食を食べていたのに突然走り出し、何時のまにかできた傾斜を駆けてゆく家族を描く作品。

 「われらの地図」の18ページ。小松、星、半村、筒井、豊田、眉村たちの、熱海と銀座で麻雀をやっている時のお喋り(故に科白しかない)でできた作品。

 「時代小説」の長さ、32ページ。荒唐無稽な筋である。しかし、時代小説という形式・スタイルで書かれているところをポイントとしたい。

 「ジャズ大名」の長さ、本書中最長で37ページ。映画化もされた作品。中に五線譜を書いてあるので、面白さをより理解できるであろう五線譜の判る人をうらやむ。

 「エロチック街道」に29ページの表題作。交通手段になっている温泉の流れを、女に案内されて降って行く一人の男のおはなし。

(1990年10月)

新潮社
文庫
1984/刊行1981


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