|
筒井康隆著 『おれに関する噂』11の短編が収められている。表題作は全く無名の一人の男が、無名であるが故にマスコミで報道される。マスコミの報道が、そしてそれ以上に表現ということ自体が現実構成行為であることをこの作品は醒めたタッチで描いている。「通いの軍隊」という作品は、全世界に商品を売りに出かけている日本人を椰揄した作品である。会社に忠実な(長いものには巻かれてしまう)日本人が、会社の命令で軍人として雇われてしまう主人公の姿を借りて描かれる。そして落語を思わせる結末。 「心臓に悪い」は何よりも健康が大切という人間の生活を描いた作品。健康のためには何でも犠牲にしてしまう主人公の生き方は、金儲けのためには何でも犠牲にしてしまう日本人の生き方を鏡に映した像なんじゃないですか? (1990年03月) 新潮社 文庫 1978 |